龍:第156回バオバブ賞

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バオバブさんから第156回の感想をいただきました。
とても丁寧に読んで頂いて、点訳冥利に尽きます。
以下、引用させて頂きます。(淮)

 遅ればせながら芥川賞候補作品を読ませていただきました。点訳・校正をしてくださった方々に御礼申し上げます。おかげさまで最新の好短編を楽しませていただきました。
何の意味もありませんが、「バオバブ賞」を発表します。お暇があったらお読みください。

 栄えある(?)バオバブ賞は、『カブールの園』でした!
これは小説としての完成度には疑問があります。日系三世のキャリアウーマンの秘めた苦悩を描いた作品だと思うのですが、過去のトラウマというのが丁寧に書かれていないので、僕には抽象的にしか伝わってこないのです。ただテーマの重み敬意を評して最優秀としました。なんのことはない、僕の好みに過ぎません。作中の「ディズニーのイッツ スモール ザ ワールドを聴いたり、リンカーンの肖像を見たりした時に感じる居心地の悪さ」という件が印象に残っています。でっち上げの理想やありきたりの正論に対する気恥しさ、あるいは違和感は、それなりに共感できます。

 『新世界』は、一番読みやすく、気分良く読めました。『緑のサル』とは、ずいぶん違いますね。北海道の開拓村みたいな演劇塾の1年。先生とのあれこれも塾生たちの言動も興味をかき立てるものでした。ただ「それでどうした?」とつっこみたくなる、結局何が言いたかったのか僕にはよくわかりませんでした。

 『縫わんばならん』も作品の意図が僕には分からなかったのです。被写体をあの老婆から別の老婆へ、そして突然里帰りした青年へと移動させ、御通夜の情景を長々と語って、でも何を訴えたかったのでしょう。やはり「それがどうした」とつっこみたくなりました。

 『キャピタル』は不思議な物語ですね。細かく分解していけば、各パーツ(会話や情景)にはリアリティーがあるのに、抽象的で分かりにくい企業だかなんだかで働いて、1年間の休暇を得て、なぜだかバンコクでぐうたらして、先輩の依頼で現地の大企業の令嬢を病院に見舞って、彼女を東京都函館に案内して、という筋立てにはリアリティーが無い。僕は翻弄されました。そしてやはりメッセージが伝わってこなかったのです。

 『ビニール傘』は、なにがなにやら分からなくて、途中で読めなくなりました。僕には5W1Hがはっきりしていない作品を理解する力がないのです。

 僕は社会派と言うか、なんらかの問題提起のある小説を好む癖があり、それが希薄だと「何が言いたい?それがどうした?」という物足りなさを感じてしまうようです。

 下半期もよろしくお願いします。
 関係各位に「バオバブが喜んでいた」とお伝えください。

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